長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

残されたものは

湊かなえさんの最新作『落日』を読みました。

児童虐待、いじめ、引きこもり、一家殺害、自殺と

扱っている題材は、まさに“イヤミスの女王”全開の作品です。

 

思い出すのは、あの子の白い手。

忘れられないのは、その指先の温度、感触、交わした心。

 

でも、短いエピソードを一つずつ読み進めていくと、

隠されていた“真実”が、明らかになっていき、

最後には、爽やかな感動が込み上げてきました。

 

知ることは救いになる。

 “愛情”の反対は、“無関心”と言います。

他人を知ることは、その人だけでなく、自分も救われます。

 

実際に起きた事柄が事実、そこに感情が加わったものが真実

 “事実”と“真実”。それに関わる人間の感情で、受け止め方は180°変わります。

大事なのは、 “事実”か“真実”、どちらなのでしょうか?

 

指先で床を叩いているうちに、

彼の中に、何か懐かしい感情が湧き上がってきた。

それが何だか、今はまだ、はっきりと思い出すことができない。

遠い日の記憶。一人ぼっちだと思っていた暗闇の中で、

指先に感じた体温。その向こうにいた人の声が聞こえたような気がした。

真っ暗になった彼の世界に、新たな柔らかい光がともされようとしている。

 

その展開は、実に鮮やかでお見事です。

本作は来週、発表される直木賞を受賞するかもしれません。

そうしたら間違いなく、すぐに映画化されると思います。

それほど良い作品でした。

 

追伸 惜しくも、直木賞の受賞は逃しました。