長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

想像ができない

楽しいことはみぃんな大阪から始まったんやで!

 年が明けて、今年最初の小説は、高殿円さんの『グランドシャトー』です。

時は、高度経済成長期の昭和38年、奇しくも前回の東京オリンピックの前年。

大阪の京橋に実在したキャバレー“グランシャトー”をモデルに、

そこで働いた、二人のホステスのお話。

 

夜の世界に長くいると、この世にはその日暮らしの人間がどれだけ多いか

目に見えてわかる。生活保護などの福祉制度があるといえ、

役所は飛び込みで行ってすぐに三万円貸してくれない。

電車賃を払って役所まで出かけて手ぶらで戻ってくることを考えるだけで足が竦み、

あるいは、その電車賃すら惜しまざるを得ない人間がどれだけいるか、

役所で働いている人間にはきっと想像もつかないだろう。

お天道様の下で働き、日が暮れれば家でビールを飲めるひとの波にいる人間には

わからない。悪意があってのことではない。純粋に想像ができない。

まだ明るい中に借金を申し込みに行って、断られ、

己の生き方から行状まですべて言わされる。そのうえ間違いを指摘される。

光り輝く正しい人々に非難され軽蔑されることがどんなに苦痛で耐えがたいものか。

 

“古き良き昭和を懐かしむ”というよりも、

平成から令和になって、簡単に情報やモノを手に入るようになった一方で、

見失ったものがあると感じました。本当の幸せとは?豊かさとは?

恐らく“光り輝く正しい人々”には、それも想像ができないと思います。