長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

間違ってはいけない組織

呉勝浩さんの『マトリョーシカ・ブラッド』を読みました。
重厚な警察内部を描いた作品です。これまで読んだ他の作品とも、かなり雰囲気が違います。

警察内部と言うよりも、正確に言うと、ある殺人事件を捜査する刑事の内面の葛藤や焦燥、保身と正義感、功名に逸る心、オトコ社会、縦社会の現実が、警視庁と神奈川県警の複数の登場者を通じて、これでもかと言うほど、幾重にも描かれていきます。

携帯を握る手は動かない。正しさはわかっている。けれど正しさに殉じる代償は?人生を棒に振る価値が、正しさにはあるのか?

冤罪。どんと胸を打たれる感覚だった。この言葉の重みは、一般の人が思う以上に警察組織にとっては思い。無実の罪で裁かれた当人が一番なのは当然だが、関わった警察官、司法関係者の人生も変わる。大げさでなく、二度と陽の目を見られなくなる。

呉勝浩さんは、警察や司法関係者ではないのに、何で分かるのだろうか?
コールセンターって、警察・司法関係者と繋がりがあるのでしょうか?不思議です。
でも、考えてみれば、関係者じゃないからこそ書けるのかもしれません。

「誰かの都合の中でおれたちは生きてんだ。おれたちにはおれたちの都合がある。飯を食うとか幸せな家庭を築くとかな。その都合を通すためには、大きな都合に従う方が賢い」小さな吐息とともにもらす。「そういう仕組みなのさ」「普段偉そうにしてても、兵隊は兵隊つてことですか」

一人一人が、いずれも一癖二癖あって、正直言って捜査自体の進展は、少ないにも関わらず、先へ先へと読まされてしまいました。

与えられた人生は仕方ない。今いる環境も仕方ない。世の中の仕組みも仕方ない。けれどその中で、何をするかは決められる。

そして、「薩長同盟」が成立する?えっ?彼が、坂本龍馬?でも、最後は…
なんだか「人間交差点」みたいな話でした。シリーズ化もありかもしれません。