長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

生と死を分かつものは…

たまたま図書館の新刊コーナーに置いてあったのを、手に取って、読みました。
とても深く、重いテーマの本でしたが、最後まで一気に読んでしまいました。
その本は、乾ルカさんの『心音』です。
物語は「終焉」から始まって「誕生」で閉じられます。

「あなたはまるで、人の死を自分の幸福に変えて生きているようだ」

「意味のない人生はない、人には必ず役目がある」

子どもの臓器移植、最愛の娘や妻を失う悲しみ、絶望、苦しみ、そこからの再生を描くことで、
さらに大きなテーマが、隠されていました。
それは最後の章「私の音」で、明音の言葉で綴られています。

「……間違っていても、身勝手でも、それでもあなたにいてほしい」

「あなたがいる。それだけで私の世界は変わる。いてくれるだけで……」

特に巻末の数行に、作者が題名の『心音』に込めた“思い”が分かります。
たぶん賛否は、いろいろあるとは思いますが、私はこのラストに“救い”と“希望”を感じました。

明音は胸に手を当てた。鼓動に触れ、音を聞く。
もはや意味も役目もないかもしれない。たが、それでも。
「すべて負って生きます。あなたにも、誰からも必要とされなくても」
生きている。それだけで、人は奏でる。
「私は悔いません」
これは私だけに与えられた痛みだ。奏でられるのは私しかいないのだ。
奏できってみせる。
初めて聞く音が、明音の胸に響いている。

“私の音”を聞いた明音は、この後で若葉ママ、間野先生、そして利耶に会いに行くと思います。
もしかすると、翼君を迎えに行くかもしれません。バイオリンもまた弾くかもしれません。
いずれにしても、これからは、ちゃんと自分の生き方が見つかると思いました。