長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

これぞ、大河歴史小説!

帚木 蓬生さんの『襲来』を読みました。帚木 蓬生さんは、“全作品読み作家”の一人です。
最初に読んだ作品は『閉鎖病棟』でした(何年前だったでしょうか?まだブックオフに通い始めてすぐのころに、題名が気になって、買って読んでハマって、幾つかもの店をハシゴしては、作品を探して歩いた記憶があります)。以来、30冊以上の作品を読んでいます。ちなみに「ははきぎ ほうせい」と読みます。源氏物語の章からのペンネームらしいです。テレビ局に入社した後に、医学部に入り直して精神科医になって、開業医と執筆の“二足のわらじ”という、特異な経歴をお持ちです。

作品は、医学物から犯罪サスペンス、歴史小説と幅広く、福岡県出身ということから、九州を舞台にした作品が多いのですが、一方ではフランスやドイツ、韓国、南アフリカアフガニスタンなど海外が舞台の作品もあります。今でも新作が出されると必ず読んでいます。

今回の『襲来』は、鎌倉時代元寇、蒙古“襲来”を描いた作品です。単行本の上下2巻それぞれ345ページと297ページにも及ぶ大作です。巻末の参考文献の数が圧巻です(なんと4ページもあります!)。

海が荒れた日の翌朝、岩陰で泣いていた赤子が自分だったらしい。それが富木様に仕える貫爺さんが聞きつけ、岩場に走った。壊れかけた舟の舳先で震えている赤子がいた。その脇の岩陰には、若い男女の死体が横たわっていた。

今の千葉県外房の海岸で、拾われた赤子「見助」が主人公です。「見助」が移り住むことになる鎌倉、そして対馬が舞台となって、当時の風俗や食べ物、街の様子、旅の情景が、平易な文章で、イキイキと再現されています。「見助」の15才から45才まで、実に30年間を綴った“大河歴史小説”です。

聞きながら見助は胸が締めつけられる。蒙古の博多侵攻が遅れれば、それだけ対馬壱岐の被害が大きくなる。二つの島に設置される烽とて、所詮は島の住民のためではなく、博多と太宰府のためなのだ。

特に、蒙古軍の犠牲となって、全滅する対馬壱岐の人々の惨劇は、終戦時の沖縄が連想されます。沖縄だけでなく、ソ連軍が攻め込んだ満洲樺太、千島列島でも同じような悲劇があったことでしょう。