人と人との繋がり=もやい結び
大門剛明さんの小説『共同正犯(改題『優しき共犯者』)』を読みました。
船舶用の巨大な鎖=アンカーチェーンを製造する工場で、
殺人事件が起きます。
連帯保証債務に係わる悲劇がテーマの話です。
「もやい結び…(中略)
もやいという言葉に人と人がつながるという意味があることも。
俺たちはアンカーチェーンを作っている。どこにも 負けない 最高の鎖だ。
(中略)だがアンカーチェーンより強い綱がある。それは人どおしを綱だ。
人と人を結ぶ、もやい綱は鉄の鎖より強いんだ……」
“もやい”は、漢字で書くと“舫”。
船と船を綱でつなぎ止めること、複数の人間が、共同して作業や事業を行うこと、
力を合わせて助け合うこと、を指すそうです。
そして、改題にもなったとおり、優しい人びとが何人も登場し、
お互いに相手を思って、共同で、自ら罪を犯してまでも、
”誰か“を守ろうとします。
その中でも、主人公と言える居酒屋店主の鳴川仁=鳴やんが、特に別格です。
殺人事件を捜査するベテラン刑事でさえ、思わず口にしてしまいます。
「鳴川いう男は、とんでもないアホや。
ただし、ええ意味でのアホ。ホンマに情の篤い奴や」
また、本人に対しても言います。
「鳴川さん、あんたは損な性格ですな……
いつも他人のためだけに動いて自分は置き去り。
ですがお天道様はきっと見ていてくれると思います。
いつかええことがあるやろ思います。」
本当にそうだと良いと思います。
最後に犯人が捕まって、隠されていた真実が全て明らかになりますが、
鳴やんだけでなく、他の人たち全員が幸せになってくれることを、
祈りたくなります。そんな話です。