長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

人と人との繋がり=もやい結び

 

大門剛明さんの小説『共同正犯(改題『優しき共犯者』)』を読みました。

舞台は、兵庫県姫路市播磨灘に灌ぐ夢前川の河口にある

船舶用の巨大な鎖=アンカーチェーンを製造する工場で、

殺人事件が起きます。

連帯保証債務に係わる悲劇がテーマの話です。

 

「もやい結び…(中略)

 もやいという言葉に人と人がつながるという意味があることも。

 俺たちはアンカーチェーンを作っている。どこにも 負けない 最高の鎖だ。

 (中略)だがアンカーチェーンより強い綱がある。それは人どおしを綱だ。

 人と人を結ぶ、もやい綱は鉄の鎖より強いんだ……」

 

“もやい”は、漢字で書くと“舫”。

船と船を綱でつなぎ止めること、複数の人間が、共同して作業や事業を行うこと、

力を合わせて助け合うこと、を指すそうです。

そして、改題にもなったとおり、優しい人びとが何人も登場し、

お互いに相手を思って、共同で、自ら罪を犯してまでも、

”誰か“を守ろうとします。

 

その中でも、主人公と言える居酒屋店主の鳴川仁=鳴やんが、特に別格です。

殺人事件を捜査するベテラン刑事でさえ、思わず口にしてしまいます。

 

「鳴川いう男は、とんでもないアホや。

 ただし、ええ意味でのアホ。ホンマに情の篤い奴や」

 

また、本人に対しても言います。

 

「鳴川さん、あんたは損な性格ですな……

 いつも他人のためだけに動いて自分は置き去り。 

 ですがお天道様はきっと見ていてくれると思います。

 いつかええことがあるやろ思います。」

 

本当にそうだと良いと思います。

最後に犯人が捕まって、隠されていた真実が全て明らかになりますが、

鳴やんだけでなく、他の人たち全員が幸せになってくれることを、

祈りたくなります。そんな話です。