長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

◯◯に、ありがとう ◯◯に、さようなら

1995年に放送されたTVアニメに始まり、その後、何度も映画化された話が、

コロナ禍による二度の公開延期を得て、ついに“完結“しました。

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期待に反して

清く、正しく、美しく、真っ当な映画で、

ちゃんと納得して、大満足しました。

素直に、みんな、一人も漏れなく、幸せになって欲しいです。

そう思えた作品でした。

 

22日の『プロフェッショナル 仕事の流儀』で

4年間に及ぶ、監督に密着取材したものが放送されます。

とても楽しみです。

 

そして、すべての◯◯たちに、おめでとう!

 

監督、スタッフ、制作に関わった全ての人たち、

長い間、お疲れ様でした。ありがとうございました。

 

ピュアな心 心美しき者?

長谷川博己さん主演のNHK大河ドラマ麒麟がくる』も、残り4回となりました。

先週放送の『平蜘蛛』では、

あまりにも広すぎる安土城の大広間で、光秀と染谷将太さん演じる信長の対面、

そして、吉田鋼太郎さん演じる松永久秀が、光秀に仕掛けた“罠”が話題になっています。

久秀が光秀に託した言葉は、

 

 「これほどの銘器(平蜘蛛)を持つ者には、

 それ相応の覚悟がいる。いかなる折りでも、

    誇りを失わぬ者、志高き者、心美しき者」

 

古来の中国では、為政者が“仁”のある政治を行えば、

泰平の世となり、必ず伝説の聖獣“麒麟”が現れると言われていました。

だから、『平蜘蛛』を持つ者=“麒麟を呼ぶ者”であって、

信長はそれに相応しくない。それなら、お前がなれ!

と久秀は、光秀に思いを託したのだと思います。

 

蘭奢待』に関する、正親町天皇とのすれ違いでもそうですし、

信長は、久秀が自ら焼いた茶器を見て、声を上げて泣きます。

間違いなく心はピュアなんだと思います。

しかし、ピュアであるが故に、他の人の気持ち、いわゆる人心が理解できない。

ピュア=心美しき者ではないと思います。

信長はなぜ、足利義昭浅井長政松永久秀らが離れていくのか分からない。

この後、物語は荒木村重の謀叛と出奔、佐久間信盛の追放。

さらには、光秀の丹波攻めと母親の磔死、領地の没収、家康の饗宴おもてなし、

そしてついに「本能寺の変」「天王山の戦い」となります。

 

『是非に及ばず』

 

これが、信長最期の言葉と言われています。

どのような意味で、染谷さんが口にするのか、今からとても楽しみです。

 

物語の最後は、佐々木蔵之介さん演じる秀吉が、信長の高い志を受け継いで、

誇り高き天下人になるが、“心悪しき者”のために麒麟は現れず。

「厭離穢土 欣求浄土」の旗印を掲げ、“心美しき者”風間俊介さん演じる家康が、

いずれは麒麟を呼ぶことを暗示したラストを予想します。

 

なお、どうでもいい余談ですが、

蘭奢待』も『平蜘蛛』も、実際は思ってたよりも大きいのですね。

天下に二つとない名宝なので、もっと小さいと思ってました。

そもそも、官位や名品などに執着する者は、“心美しき者“ではないです。

 

 

 

人と人との繋がり=もやい結び

 

大門剛明さんの小説『共同正犯(改題『優しき共犯者』)』を読みました。

舞台は、兵庫県姫路市播磨灘に灌ぐ夢前川の河口にある

船舶用の巨大な鎖=アンカーチェーンを製造する工場で、

殺人事件が起きます。

連帯保証債務に係わる悲劇がテーマの話です。

 

「もやい結び…(中略)

 もやいという言葉に人と人がつながるという意味があることも。

 俺たちはアンカーチェーンを作っている。どこにも 負けない 最高の鎖だ。

 (中略)だがアンカーチェーンより強い綱がある。それは人どおしを綱だ。

 人と人を結ぶ、もやい綱は鉄の鎖より強いんだ……」

 

“もやい”は、漢字で書くと“舫”。

船と船を綱でつなぎ止めること、複数の人間が、共同して作業や事業を行うこと、

力を合わせて助け合うこと、を指すそうです。

そして、改題にもなったとおり、優しい人びとが何人も登場し、

お互いに相手を思って、共同で、自ら罪を犯してまでも、

”誰か“を守ろうとします。

 

その中でも、主人公と言える居酒屋店主の鳴川仁=鳴やんが、特に別格です。

殺人事件を捜査するベテラン刑事でさえ、思わず口にしてしまいます。

 

「鳴川いう男は、とんでもないアホや。

 ただし、ええ意味でのアホ。ホンマに情の篤い奴や」

 

また、本人に対しても言います。

 

「鳴川さん、あんたは損な性格ですな……

 いつも他人のためだけに動いて自分は置き去り。 

 ですがお天道様はきっと見ていてくれると思います。

 いつかええことがあるやろ思います。」

 

本当にそうだと良いと思います。

最後に犯人が捕まって、隠されていた真実が全て明らかになりますが、

鳴やんだけでなく、他の人たち全員が幸せになってくれることを、

祈りたくなります。そんな話です。

秘密


東野圭吾さんの小説『希望の糸』を読みました。

ネタバレさせないため、詳しい内容は“秘密”にしておきます。

 

そう言えば、東野圭吾さんには『秘密』という小説がありますね。

こちらは、広末涼子さんが主演で、父親役が小林薫さん、

母親役が岸本加世子さんで映画化されました。

 

「この糸は離さないっていってたな」

「たとえ会えなくても、

 自分にとって大切な人間と見えない糸で繋がっていると思えたら、

 それだけで幸せだって。その糸がどんなに長くても希望がを持てるって。

 だから死ぬまで、その糸は離さない」

 

本作品も、同じように「親子」がテーマになっています。

やはり映画化された『麒麟の翼』『祈りの幕が下りる時』で

お馴染みの加賀恭一郎が登場しますが、むしろ従兄弟の松宮修平が中心です。

 

たぶん、この作品も来年あたり映画化されると思います。

前述の二人は、当然、阿部寛さんと溝端淳平さんが演じるとして、

その他のキャストが誰になるか、想像しただけでワクワクします。

 

 

罪と罰(その5)更生とは何か?

 

続けて、大門剛明さんの小説『告解者』を読みました。

主人公は、金沢市の郊外にある更生保護施設の補導員を務めています。

 

「人は変われる。一緒なら」

「刑によって痛みと苦痛を教えることは出来ても、

 すさんだ心を元に戻すことなどできません。

 刑にどう対処するかという抵抗力、ずる賢さが増すだけです。

 加害者であるのに、被害者意識だけが増幅してしまう。

 すさんだ心が、刑によって清められることは決してない。

 そう思います。自力で人は変われないんです」

 

更生保護施設とは、刑務所を出たものの身元引受人がいない者などを

保護観察所からの委託を受けて、一時的に預かる民間の施設です。

宿泊や食事を供与しながら、社会復帰に向けた生活指導、就労指導を行います。

そこに、2人の人を殺し、無期懲役の判決を受けて、

22年間服役した後に仮釈放となった男が入所してきます。

 

その男が主人公に問います。

「更生とは何なんですか」

「思いのこもらない謝罪でも、無理にしなければいけないのでしょうか?

 心から謝罪することこそが更生ーーー本当にそうなんですか。

 私は更生出来ないんでしょうか」

 

そして、 主人公が答えます。

「更生できない人なんていない!」

 (中略)

「更生っていうのは、たぶん……永遠に未完成なものなんです」

「更生したーーーそんな言い方がそもそもおかしいんじゃないですか?

 更生ってものはいつも途中。決して完成なんてしないものなんです。

 今自分の中に心からの謝罪の思いがないからといって絶望する必要なんてない。

 毎日必死で頑張って前に進もうと努力する……地味な行為の積み重ねの中に

 更生はあるんです。更生した、しないーーー白か黒で見るものではないんです」

 

そう言えば、“最弱の保護司”佳代ちゃんも言ってました。

「更生って、更に生きると読める」って。

 

 

罪と罰(その4)被害者遺族の癒し


大門剛明さんの小説『氷の秒針』を読みました。

長野県の諏訪地方を舞台に、

殺人罪に対する「公訴時効の撤廃」と「被害者遺族の感情」をテーマにした話です。

読み終わった瞬間に、米津玄師さんの『lemon 』が頭の中で流れました。

主人公の原村俊介と中堂系が重なります。

 

「俊介さんの時間はずっと凍りついたままなんです」

「あの懐中時計の秒針は動き続けていても、

 俊介さんの心、氷の秒針はきっと動かない。だから...」

(中略)

より深刻な傷を負っていたのは結局、こちらの方だったかもしれない。

そしてその故障はきっと誰にも、時間でさえも治せない。

 

 

最愛の人を、ある日突然失った悲しみ抱えて、周りに当たり散らす俊介。

そして、16年経って犯人(百瀬)が自首をします。

一方で、家族3人が殺され、自分一人だけが生き遺った小岩井薫は、

そのことに罪悪感を抱え、胸の奥の苦しみを隠しながら、生きています。

 

時は痛みを癒しはしない。

遺族の無念の気持ちや報復感情は収まらない。

それどころか、むしろ強くなる。

(中略)

「犯人が罪に問われてもこちら側の痛みとは無関係だって」

(中略)

百瀬が自首、逮捕されても心には穴が空いたままだった。

その正体がやっとわかった気がする。

俺は百瀬の逮捕など本当はどうでもいいのだ。

幸せになりたい……ずっとその欲望に蓋をしてきた。

 

是非、井浦新さんが俊介を、小岩井薫は“あの人“で、

ドラマ化して欲しいと思います。他の登場人物、それぞれの殺人事件の加害者や

その関係者、弁護士や息子、そして執念で退職後も犯人を追い続ける元刑事、

主人公の義父。(ドラマでは義母に変えて、薬師丸さんが演じるのもあり?)

どの人物も味わいが深くて、誰が演じるのか考えるだけでワクワクします。

 

WOWOWさんよろしくお願いします。ちなみに、大門剛明さん作品では

『テミスの求刑』と『獄の棘(ヒトヤノトゲ)』が、ドラマ化されています。

前者は、検察事務官仲里依紗さん、後者は、刑務官を窪田正孝さんが演じました。