外の人間が求める答と、ほんとうのこと
呉勝浩さんの最新作『スワン』を読みました。
巨大ショッピングモール「湖名川シティガーデン・スワン」で起きた
無差別銃撃事件で、犯人の一人に捕まり、生き残った女子高生が主人公の話です。
彼女は、当初の被害者の立場から、一転して、
加害者のようにマスコミやネットで激しいバッシングに遭います。
わかってる。通じない。こちら側の言い分は通じない。
彼らにとって事件は客席から眺める「物語」で、山路は「登場人物」で、
記者会見は「場面」だった。表情やしゃべり方は「お芝居」とみなされ、
カメラのフラッシュは「演出」だった。そしてこの「物語」は、
観客が望むとおりに「改変」される。
無責任につぶやかれる有象無象の意見はたいてい、馬鹿げているのだ。
けれど馬鹿げていると切り捨てるには強い精神力が要る。
そうしないとささやかな毒がちょっとずつでも心にたまり、
やがて内部をむしばんでしまう。
そして、明らかになる、彼女が“ほんとう“に体験したことは?
たくさん言葉を使っても、たぶん、ほんとうを伝えることは、できないから。
あの瞬間の行動や決断は、あの場面の、あの空気だったり感情の流れ、明るさ、
すすり泣きや息づかいや温度といったすべてによってつくられていたから。
「説明すればするだけ、ちがってしまう」
誰にも伝わらない。
(中略)同じ場所と時間を共有していても。事実を共有していても。
「だから……起こったことだけ、言葉にすることしかできない。
そうなんだから、そういうことなんだって、受け止めるしか」
期待に違わず、呉勝浩さんらしい重い内容でしたが、読みごたえのある作品でした。
第73回日本推理作家協会賞、第41回吉川英治文学新人賞、第162回直木賞候補作です。
もしかしたら、将来、映画化されるかもしれません。