長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

平成という時代を描いた作品

林民夫さんの小説『糸』を読みました。

瀬々敬久監督の同名映画のノベライズですが、小説としても完成度が高いと思います。

 

そもそも、林民夫さんは小説家ではありません。映画『糸』の脚本家さんです。

さらに言えば、映画も、中島みゆきさんの歌をモチーフに、企画されたものです。

しかも、皮肉と言うか、不思議なことに、映画はまだ公開されてません。

 

物語は、平成最初の日である平成元年1月8日に生まれた菅田将輝さん演じる“高橋漣

(少年役:南出凌嘉)が12歳の時に、小松菜奈さん演じる”園田葵“(少女植原星空

と出逢い、惹かれ合って、引き離され、再会しては、また行き違って、

それぞれ別の相手と過ごし、その相手と別れてから、

平成最後の日である平成31年4月30日に、再び巡り逢うまでの31年間の話です。

 

林民夫さんの小説は、主人公の二人と、二人が出逢う人々、

その一人一人について、丁寧に、丁寧に、中島みゆきさんの歌詞のごとく、

一本ずつ、縦糸と横糸のように、書いています。

口に出された台詞や情景の描写だけでなく、

水面下に沈んだ氷山の7分の6の部分までも、書き込んでいます。

 

「第一章 縦の糸」は、と、彼が出逢う4人が交互に記されます。

( )内は演じた役者です。

  竹原直樹(成田凌)、後藤弓(馬場ふみか)、

  桐野香(榮倉奈々)、山田利子(二階堂ふみ

「第二章 横の糸」は、と、彼女が出逢う2人が交互に記されます。

  矢野清(竹原ピストル)、水島大介(斎藤工

「第三章 ふたつの物語」は、の義父と実父、を支えた2人が記されます。

  桐野昭三(永島敏行)、高橋英和、

  高木玲子(山本美月)、冴島亮太(高杉真宙

「第四章 逢うべき糸」は、を身守った2人と、の子が記されます。

  富田幸太郎(松重豊)、村田節子(倍賞美津子)、

  高橋結(稲垣来泉

 

総勢で15人。一人一人の生き様と思いが交錯し、まるで無数の糸が

重なり合って、織り込まれた、壮大な一片の布のようになっています。

 

縦の糸はあなた 横の糸は私

逢うべき糸に 出逢えることを

人は仕合わせと呼びます

 

あくまでも印象ですが、なんだか、平成って、そんな時代だったという気がします。

映画の公開が楽しみです。瀬々監督の演出と豪華な俳優たちの演技によって、

林民夫さんが小説で書いた水面下の氷山の7分の6が、どのようになっているのか?

期待が高まります。