長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

硝子の少年時代を乗り越えて、大人になる

先週と今週の2週連続して、宮部みゆきさん原作の映画『ソロモンの偽証』の前編・後編を、BSの国営放送でやっていました。思わず、引き込まれて観てしまいました。

宮部みゆきさんの原作は、もちろん読んでいます。
映画の方も、映画館には行きませんでしたが、地上波で放送された際に観ました。
なので、今回で映画を観たのは二回目となります。

原作が書かれたのは、2002年(平成14年)から2011年(平成23年)まで、実に9年も掛けて雑誌に掲載されました。文庫本は、その3年後の2014年(平成26年)に発売されているので、この時に読みました。映画は、翌年の2015年(平成27年)に公開されて、テレビ放送は、さらに次の年の2016年(平成28年)だそうです。その後、韓国でもテレビドラマが作られたようです(こちらは、観ていません)。

話の設定は、1990年から91年(平成2年〜3年)。主人公たちは中学校2年生から3年生、14〜15歳。まさに「硝子の少年時代」です。どこまでも真っ直ぐで、純真で、残酷で、傷付き易くて、壊れ易い“時代”(KinKi Kidsの歌の方は、恋の歌なので、もう少し上の年代みたいです)。奇しくも、エヴァのシンジくんたちも同年代。宮部さんの作品、特にファンタジー系の作品には、少年少女が主人公のものが、幾つかあります(時代劇系では、サブキャラで有り)。でも、現代物では珍しいと思います。それでも、宮部さんは容赦しません。人間の“嫌な部分”“醜い心”“悪意”がダイレクトに描かれ、台詞がナイフのように突き刺さります。本作品の主題は、謎解きミステリーでも、犯罪サスペンスでもないと思います。少年少女たちが、降り掛かる“悪意”や“暴力”に怯まず、勇気を出して立ち向かって、自己の“弱さ”を克服し、最後は乗り越えていく“成長の物語”です。

そういうのを「口先だけの偽善者」って言うんだよ

そういう空っぽで鈍い人間は、存在しているだけで罪なんだよ

柏木くんも、モリリンの隣人の主婦も、樹里の母親も“怖い(痛々しい)”のですが、やはり一番怖いのは、作者の宮部みゆきさんだと思いました。この大作を、10年近く掛けて、最後まで書き上げたコトがスゴいと思います。松子ちゃんが本当に可哀想です。映画では、ほとんど描かれませんが、原作では野田くんの成長と大出くんとツルンでいる子や陪審員に立候補する少女の話が、とても強く印象に残っています。柏木くんの家庭環境、兄との関係も書かれています。

僕はそれでも生きていく

君にそんなの決められたくない

たぶん、シンジくんの「逃げちゃダメだ」と、同じ意味なのでは?
結局は、本人の“意志次第”であり“選択の問題”だとは思いますが「○○だから、自分は○○するしかない」と決め付けてしまうか「それでも、自分は○○していく(いきたい)」と考えるのか。本来ならば、彼らの身近に居る大人=親・兄弟・先生たちが、己の姿で示してあげることで、自然に身に着けていくことができるのではないでしょうか。藤野さんにしても、神原くんにしても、両親(養親)の“生きる姿勢”や“困難に対する態度”“子への信頼”が、そのまま二人の選択に反映しています。

引用した台詞は、映画では重要なキーワードでしたが、どちらも原作にはなかったと記憶しています。
もう一つ、大事なシーンがあります。

どうしたんだい?何か困っているのかい?

小日向文世さんが演じた前校長先生に対して、生徒たちが感謝を述べて、次々に頭を下げていくシーンには、思わず泣けてきました。子どもたちは、どの大人が誠実に向き合ってくれて、自分たちを守ろうとしてくれたのか、ちゃんと見ています。その一方で、津川雅彦さん演じる電器屋のオジサンの存在も、重要だと思います(『万引き家族』での柄本明さんの役がそうでした)。いつも子どもたちを見守って、時に声を掛けてあげる大人が必要だと思います。

もう一つ余談ですが、柏木くんを演じた子役が、現在、話題のテレビドラマ『3年A組-今から皆さんは、人質です-』に、出演しています(そうです!あの『アンナチュラル』のパプリカくんです)。さらに言えば、松子ちゃん役の娘も『3年A組』に出ています(さらに『チアダン』『あさひなぐ』にも)。2人とも、本作品のオーディションで選ばれて、デビューしてます。『3年A組』の第7話は、その2人が中心となる話でした(それにしても、教師としてモリリンは『3年A組』のブッキーと完全に真逆ですね)。

「今の日本には、学校に通えない子どもは居なく」とつぶやいた市会議員、「児相が出来たら自分の家の資産価値が下がるから」と建設に反対する大人を、硝子のように透明で壊れ易い子どもたちが、見ています。そのことを忘れてはダメだと思います。

自分の罪は、自分で背負っていくしかないんだよ。いつか乗り越えるために。