長介の髭 消えないままの痛み

犬と本と漫画、映画にドラマ、ときどきお出掛け。消えない傷を残して、前に歩む毎日。

何が本当か?“記憶”と“妄想”の違いは?

白石一文さんの新作『プラスチックの祈り』を読みました。

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いやはや、参りました。
詳しい内容は、伏せますが、とんでもない作品でした。

単行本で、643ページにも及ぶ大作です。
ずっしりと重いです。
本の重さもそうなんですが…

白石一文さんが、これまでの作品で、書いてきたテーマ
“神秘的な力”“壊れた人生の再生”“記憶と認識”
“夫婦の愛”それらの集大成、と言って間違いないです。

本の帯に書かれたキャッチコピー
「あなたはどこまでついてこられるか?」
「読者を挑発するノンストップ問題作」
「現実を侵犯する?この物語の力よ!」
どれも、そのとおりだと思いました。

実際に危うく、徹夜読みするところでした。

「記憶とか思い出ってのは、もともとそういうもんなんじゃないですか。
 物事なんてのは誰だって自分の都合がいいように憶えてしまうもんですしね。
 それでいいんだと思いますよ」

「要するに本当なんてものはそうやって幾つもあるってことですよ」

「何が本当かなんてどうでもいいんですよ。
 本当なんて、そんなものはどこを探してもなくて、本当かどうか決めるのは
 全部僕たちの腹次第でね。僕たちがこれは本当だと思えば、それが本当なんですよ」

「たとえ妄想でも全然構わないと僕は思うんですよ。
 大袈裟に言えばね、この僕たちの人生そのものが妄想みたいなもんでしょ」

630ページまで読み進んだときに、予想外の結末に驚愕します。
しかし、話はそこで終わらず…
その後、636ページで、文字どおり世界が一回転します。

何が起こったのか、分からなくなります。
そこまで読み進めてきた自分の“理解”や“認識”が、グラつき始めます。
そこで前に戻って、読み直してみます。すると“私”って、いったい誰?
“記憶”しているのは“本当の記憶”?それとも“嘘の記憶”?
何が“本当”で、どこまでが“妄想”?それまで“信じていたこと”が疑わしくなり、
完全に“真実”を見失ってしまいます。

白石一文さんは“全作読み作家”の一人ですが、本作品が、自分のナンバーワンだと思います。
宮部みゆきさん、村上春樹さんの作品に匹敵する、お気に入りの作品となりました。