神様除去。真剣に生きた証です。
2017年10月29日にWOWOWで放送されたのを、録画したまま、無意識で観るを避けていました。
何となく、今なら観ても良いような気がして、1年半を経て、ようやく観ることが出来ました。
その映画は『聖の青春』。実在した天才棋士“村山 聖(むらやま さとし)”さんを描いた作品です
やっぱりね なんでも1番を目指さなきゃ ダメなんです
思ってるだけなら バカでもできます
本当に1番になるためには何をすべきか 知らなくちゃダメです
僕はあなたたちとは 違うから
わりゃアホじゃのう ほんっま アホじゃのう
将棋は、殺し合いじゃろうが
将棋指しの人生は それが すべてじゃろうが
大丈夫ですよ 人間 誰でも いつかは死にますから
そんなことよりも 今 僕たちが考えなきゃいけないのは
目の前の一手です
ええのう 気軽に将棋を指してりゃ お金をもらえるんじゃけぇ
僕は苦しみながら 将棋 指しとる
そんな気持ち 元気な人らには 分からんじゃろう
緊張した将棋の対局場面の合間合間に、カットインされる“大阪の日常風景”“動物たち”など、穏やかな映像、そして時折流れるインストメンタルの音楽、スローモーションのシーンが絶妙です。
村山聖棋士役の松山ケンイチさんと、あの羽生善治名人役の東出昌大さんの演技が、とても強く印象に残ります。どちらも、鬼気迫る“役者魂”を感じさせる名演技です。松山ケンイチさんは、役づくりのため20キロ肥って挑んだそうです。一方で、誰もが知っている有名人を演じた東出昌大さんも圧巻です。2人の対比、演技の奥に潜んだ、心の“静”と“動”というよりも“激”が、この映画の見どころの一つです。
(一万円札を破り捨てながら)
こんなもん 何の意味もない 全然 欲しくないわ…
生きとる人間には 必要かもしれんけど
死んでいくもんには 何の意味もないんじゃ こんなもん
お前のどこが命懸けとんじゃ!
第二の人生? そんなもん 負け犬の遠吠えじゃ!
スカスカの人生じゃ!
僕には時間がない 勝ちたい 勝ちたいんじゃ
勝って 名人になるんじゃ
僕にはね 2つ夢があるんです
1つは 名人になって 将棋をやめて のんびり暮らすこと
もう1つは…すてきな恋愛をして 結婚することです
でもダメです こんな体じゃ 僕は長生きできないから
でも こんな体じゃなかったら 将棋に出会ってなかったかもしれないし
羽生さんとも 将棋が指せなかった
神様のすることは 僕には予測のできないことだらけですよ
容赦なく襲いかかる過酷な運命。それにも負けずに、自分の人生と向き合って、神様とさえも闘い続けた、短くても、濃密な人生だったと思います。そう感じさせる作品でした。
映画のエンドロールが流れた後に「この作品は『聖の青春』(大崎善生著)を元にしたフィクションであり、事実とは異なる描写があります」との文があります。自分も放送前に、大崎善生さんの原作を読み終わっていました。確かに内容は、少し違っています。原作の方は、完全にノンフィクションで、生い立ちや師匠との関係が中心に書かれています。入退院を繰り返した養護学校時代、単身でプロ棋士を目指す過程が丁寧に描かれています。
それに対して、森義隆監督の映画の方は、将棋の世界を良く知らない自分であっても、夢を叶えたかは関係なく、どれだけ真剣にそれに向かって挑み続きたか、それが人の“生きた証”なんだとストレートに伝わります。
ネットで“村山聖”さんを検索していて、生前に本人が書き残した文章を見つけました。
以前に1チャンネルの番組『クローズアップ現代』で、紹介されたそうです。
“人間は悲しみ、苦しむために生まれた。
それが人間の宿命であり、幸せだ。
僕は死んでも、もう一度人間に生まれたい”